25
7月

荻原浩「砂の王国」

6:53 PM

 

 大手証券会社勤務のエリート・サラリーマンだった山崎遼一は、働きづくめで仕事が行き詰まったところで精神に変調をきたし、距離を置いていた妻からは離婚届を叩きつけられ、会社を辞めて、怪しいところから借金を重ね、いつのまにか所持金がたった3円のホームレスになってしまう。

 

 かろうじて残っていたプライドを捨てて、しのぎやすい公園で暮らすようになった遼一は、そこで知り合った美貌のホームレス仲村と怪しい占い師の龍斎を見ているうちに、あるアイディアを思いつく。

 

 このままホームレスのままでいても仕方がないと浦和競馬場で命をかけた勝負を仕掛け、見事大穴を当てた遼一は、それを元手に仲村を教祖に龍斎をヒーリングの大家に祭りあげて、新興宗教「大地の会」を立ち上げ、自分は事務局長として裏方に徹しながら怪しげな商売を始める。

 

 始めは殆ど信者のいないのんびりした「大地の会」だったが、仲村のカリスマ性と遼一の企画が当たり、若者をターゲットにして「大地の会」はみるみる大きくなっていく。しかし霊感商法のような世間の非難を受ける会にはしたくない遼一の気持ちとは裏腹に、徐々に「大地の会」はカルト化していき、創設者でありながら裏方に徹していた遼一の統制は効かなくなっていき・・・。

 

 少し不気味ですが面白い作品です。

 

 前半部分のホームレス生活を描いた辺りも面白いし、後半の新興宗教を立ち上げていくあたりも面白い。

 

 新興宗教が大きくなっていく過程は、少し出来すぎという感じもしますけど、でも小さな新興宗教が大きくなって行くにつれ方向性がずれていく感じは良く描かれていたと思います。

 

 遼一の子供の頃の体験が物語に生かされていて、彼がどこか夢中になって行く説得力になっているし、カリスマ仲村の正体も分かりが良かった。

 

 何故か常に焦燥感にかられて生きている遼一の創り上げたものを「砂の王国」と名付けている辺りに作者のセンスを感じますね。

 

 いろいろな事を考えさせてくれる作品です。

 

 

15
7月

東野圭吾「新参者」

6:39 PM

 2009年の「このミステリーがすごい」の国内部門1位の作品です。

 

 小伝馬町のマンションで一人暮らしの中年女性が絞殺され、警視庁捜査一課の面々と所轄の日本橋警察署の刑事たちが捜査にあたる。

 

 そうした中で、所轄警察の捜査官として日本橋署に着任したばかりの刑事加賀恭一郎が、今でも江戸の面影を残す小伝馬町・人形町の界隈の聞き取り捜査を行う事で明らかになる様々な人間模様を描いた人情物のような連作ミステリィです。

 

 自分のことを新参者だと語りながら、Tシャツの上にチェックのシャツを羽織って、ラフで刑事らしからぬスタイルで町の人達と世間話を重ねる加賀に、町の人達はついつい心を許して語り始めてしまう。

 

 何故所轄でくすぶっているのか?と誰もが思うような優秀な刑事でありながら、人情に厚い加賀が普通に暮らす町の人々の問題や秘密も解くうちに、事件と直接関係する事しない事が明らかになって行くという趣向が、出世よりも人助けというような加賀の生き方とあいまって、なかなか心温まる作品に仕上がっています。

 

 ミステリィとして謎解きを期待するのならば外れかも知れませんが、何度も読み返したくなるような素敵な作品です。